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episode 002

2092

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高層ビルが立ち並び、その隙間を縫うように自動運転エアモビリティ(空飛ぶ車やバイク)が飛び交い、それらは様々な色の残像を残して飛び去った。エアモビリティの頭上には立体映像が投影されビキニ姿の女性たちによるアルコール飲料の広告がひっきりなしに流れる。よそ見運転や飲酒運転による危険性はもはや自動運転によりとうの昔に忘れ去られた。高層ビルの表面は鳥の巣のように突起状になっておりエアモビリティの群勢はそれらに留まるようにして駐車した。その眼下を歩く人々は超高速化した通信回線によって、リアルタイムの映像配信や、遅れが一切生じない通話や娯楽を楽しみ、どこにいても世界中とコネクティングされている。

ある科学研究所の職員であるレイコは10歳になる息子が走り回るのを止めながら、同じ10歳の子供をもつ同僚であり友人のシーハンとともに拡張現実を応用した擬似スカイラウンジで昼食を取っていた。ここは地上にいながら、あたかも上空の上にある展望デッキで食事をしているような体験ができる。

「近頃ハオレンが外に出るとウチへ帰りたいってわめくのよ。今までこんなことなかったのに・・・」
シーハンはそういってプレイルームから戻ってきたハオレンをあやした。


「まあそうなの。うちのケイは真反対。外に出ると仏頂面になって空をじっと睨むのよ」
プレイルームで遊ぶケイを遠目に笑いながら話すレイコにシーハンはこう言った。
「この子たち案外鋭いかもね。今朝ニュースで見たけど宇宙を飛んでる衛星のいくつかが妙な電波を受信したのなんのって。」
そんなまさかという顔をするレイコをみてシーハンは声を小さくしながら続ける。
「やばいのはここからなのよ。私の弟ってほら、インターネットでいろんな裏情報を仕入れてるじゃない?」
シーハンの弟は趣味でハッキングをしておりで国内外の情報を違法な手段で入手し、いつか世界の陰謀を暴こうと意気込んでいた。
「弟曰く、今回受信した電波は実は百年近く前によく受信していた電波と酷似していて、その当時はインターネットとか半導体とかいろんな技術が飛躍的に成長したんだって。。その裏では非人道的な研究とかやばい研究がされてたって囁かれてて、今回もそうなんじゃないかって。弟は人類が極秘のもと宇宙で大規模な実験をしてたとも言ってる。まあ一般市民の私たちが得るのは結局新しい技術ってわけだから、あんまりきにすることじゃないかもね」
ハオレンはまた変な話だ、と興味なさげな顔でプレイルームへ戻っていった。
「そうね、でもこれだけ発達した技術のさらに上をいく技術って、もお私たちには到底理解不可能ね」
レイコは笑いながら擬似の空の遠くを眺めた。見つめる先には白く華奢な渡り鳥が一羽、まるで青いキャンバスに付いた一点のシミのようにそこにホバリングしていた。鳥は不定期に羽ばたき水平を保っている。
「そういえば、今度の会社の集まり・・・」
シーハンがそう言いかけたとき、広く壮大な空が大きく瞬きをするかのように擬似スクリーンが黒く暗転し、またすぐにその青さを取り戻した。客席が少しざわつき、レイコたちも、あわてて裏に駆け込むスタッフを見て少し動揺した。彼女らとは対照的にケイとハオレンは微動だにせずプレイルームで絵を描き続けている。
「技術に頼りすぎちゃあこうなる事もあるわさ」
そういってシーハンは残りのパスタを丸め口に運んだ。
レイコもそうね、とだけ言ってまた遠くの空を眺めた。そこにもお鳥はおらず、青い空がどこまでも続いていた。

4人がレストランを出ると街中の液晶テレビに緊急ニュースが流れていた。
「太陽フレアによる極めて大きな電磁波が地球に到達します。先ほどの停電はその初期電波によるものです。市民の皆さんは直ちに各地域の地下シェルターへ避難してください。モビリティには乗らず、電波を受信しそうな端末類は携帯せずに、水や食料をなるべく多くシェルターに寄付するように。次の電磁波では大規模な停電が予想されます。繰り替えします・・・」

ニュースを聞いて街はパニックに陥った。レイコたちは冷静な行動を努めようとするも、我先にと家やシェルターに向かう人々の勢いから息子たちを守る事に必死で身動きが取れない。
その時、晴れて明るかった街が雲がかかったように薄暗くなった。ほとんどの人々は逃げることに必死でその変化に気づかなかったが、レイコは肌寒さと薄気味悪さを感じエアモビリティが飛び交う空を見上げた。高層ビルと空中道路の間から、太陽を覆うようにして浮かぶ黒い甲虫のような形をした物体が見え隠れしていた。初めは衛星か月面旅行船だろうと思ったが降下してくるスピードが異常に早い。
「あ」
っとレイコが声を出した瞬間、直径1km以上はあるかと思える甲虫型の物体は轟音を立てながら一番高い高層ビルの真上に落下した。ビルは空っぽの紙コップのようにぺしゃんこに潰れ、高度な安全性を持つガラス窓は割れた瞬間粉状になりキラキラと太陽光を反射しながら真っ青な空中を舞った。物体は一番高いビルを垂直に潰しながら鈍い音を立てながら数メートル下まで降下し、街のビル群が物体を支える形で静止した。

あちこちから悲鳴が聞こえ、人々はみな頭上を見ながら逃げ惑っている。いくつかのエアモビリティは道路から外れ、道無き道を滑走しながら東西南北へと散っていき、他のモビリティは近場の駐車場に避難した。
「・・コ!・・イコ!レイコ!」
シーハンの叫び声でレイコは我に帰った。
「レイコ、大丈夫かい?」
「私とケイは平気、シーハンとハオレンは大丈夫?」
「ええ、でもあれはなんなんだい!電磁波なんかよりもっとおっかないものが落ちてきたじゃない。とにかくここを離れよう。」

4人が群衆と一緒になって駆け出した次の瞬間、キーンという甲高い金属音が人々の耳をつんざいた。反射的に耳を抑える人々の頭上で蛹のように硬直した物体の側面がハッチのように開きその中から車一台ほどの大きさの金属体が空中に大量に放出された。その光景はちょうど昆虫が大量の幼虫を産み落とす様であった。その”幼虫”たちは空中に漂いながら自分の居場所を確認する様な動作をした後、猛スピードで地上向かって急降下した。

それを見た人々はさらに大混乱に陥った。ケイとハオレンは人々の狂気に圧倒され立ちすくしている。レイコとシーハンは二人の手を引っ張り、人々が走る方向へ向かった。
「レイコ!あそこの角を曲がったところに夫の地下倉庫がある、そこまで行くよ!」
シーハンが息を切らしながら2ブロック先の角を指差してそう言った。

4人が必死に走っていると、後ろからビルが崩れる音と悲鳴に混じって単発的な機械音がするのに気がついた。走りながら後ろを見たレイコの目に映ったのは、”幼虫”が逃げ惑う人々に向かって一本の赤い光線を放つ光景だった。その光線の先にいる人は瞬時に灰と化した。理解し難い光景に呆気に取られているレイコの腕をシーハンが引っ張りなんとか地下倉庫にたどり着いた。

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